1940年代の日本映画は、映画法(1939年)の導入により、映画産業が国家の管理下に置かれ、内容が国策に沿うよう強制された時期でした。そして、敗戦後はGHQの監督下に置かれ、外国機関による管理と制御が行われた時期となりました。この時期に起きた象徴的な出来事として、東宝争議が挙げられます。映画会社・東宝で発生した労働争議で、戦後すぐに労働組合が結成されたことで労使関係が激化し、最終的にはGHQの軍が出動するまでの大規模な出来事となりました。この時代の映画界は、戦時下と戦後の復興期における政治的、社会的変動の中で形成され、日本映画史において重要な時期であると言えます。
第二次世界大戦と映画製作
第二次世界大戦中、日本映画は映画法の下でプロパガンダの要素を強化し、映画製作環境は大きく変化しました。戦前、日本は年間約500本の映画を製作していたものの、戦争末期の1945年にはわずか26本にまで減少しました。資材不足、特にフィルムの不足、および映画スタッフや俳優
の戦地への動員により、映画製作は極めて困難になりました。
映画の配給と上映は政府の厳しい管理下に置かれました。政府は業界の統制を強化するため、製作会社の合併を推進し、結果として松竹、東宝、大映の3大映画会社に再編されました。初の本格的な映画会社である日活は、大映へと統合されました。
GHQと日本映画(1945)
第二次世界大戦後の敗戦国・日本において、映画産業はアメリカ主導の連合国軍最高司令部(GHQ)の監督下に置かれました。特に、GHQの下部組織である民間情報教育局(CIE)と民間検閲局(CCD)が映画内容の監督を担当しました。1945年から1952年の占領期間を通じて、CIEは映画産業の民主化を推進し、人権と民主主義の価値を反映した作品製作を促しました。一方で、CCDは反民主主義的、軍国主義的な要素を含む作品の排除を行い、過去のプロパガンダ映画の上映を禁止しました。その結果、「時代劇」という人気ジャンルが封建的で暴力的であるとみなされ、検閲や制限の対象になり、製作が困難になりました。
GHQ、CIE、CCDの厳格な管理と検閲の下で、占領期の日本映画産業は新たな表現方法やテーマを探求する機会を得ましたが、その過程は矛盾に満ちていました。特に、連合国の戦争犯罪や占領下での不正行為、広島や長崎の原爆投下による被害など、アメリカにとって不都合な内容については、検閲が厳しく行われました。
東宝争議(1946∼1948)
1946年-1948年、日本の大手映画製作会社である東宝において重要な労働争議が発生しました。戦後の経済混乱と労働組合の台頭の中、映画業界の労使関係は特に緊張していました。東宝労働組合は給与の改善や労働条件の向上を求めましたが、1948年4月に東宝がこれらの要求を拒否し、組合員の解雇に踏み切ったことで、大規模な争議へと発展しました。組合は東京砧の撮影所を占拠し、バリケードを築いてストライキを行い、東宝の映画製作は一時的に停止しました。
この争議は、当時の政治情勢やGHQの影響下でさらに複雑化しました。日本共産党の関与と、それに対するアメリカ主導のGHQによるレッドパージ(共産党員の排除)が、争議への介入を強めました。事態はアメリカ軍による砧撮影所の包囲にまで発展し、装甲車や戦車が投入されるなど、極めて緊迫した状況に至りました。
最終的に、1948年末に東宝と労働組合は和解に達し、争議は解決しました。和解条件には、労働組合幹部の自主的な退社と、解雇されていた約250名の従業員の復職が含まれました。
新東宝の設立(1948)
1946年の東宝争議の最中に、大河内傳次郎、長谷川一夫、黒川弥太郎、入江たか子、藤田進、花井蘭子、山田五十鈴、原節子、山根寿子、高峰秀子の10名のスター俳優が「十人の旗の会」を結成しました。彼らは労働組合から脱退し、スタッフを引き連れて1948年4月に新たな映画会社「新東宝」を設立しました。この動きは、東宝争議の渦中で起こりましたが、新東宝は設立後しばらくの間、東宝と製作・配給に関して協力関係にありました。東宝争議の解決後、新東宝は自主配給を開始します。
1940年代の日本映画 20選
1941
監督:清水宏 製作:松竹大船撮影所
監督:小津安二郎 製作:松竹大船撮影所
監督:山本嘉次郎 製作:東宝映画(東京撮影所)/合資会社映画科学研究所
1942
監督:小津安二郎 製作:松竹大船撮影所
監督:山本嘉次郎 製作:東宝映画
1943
監督:黒澤明 製作:東宝映画
監督:稲垣浩 製作:大映京都撮影所
1944
監督:木下恵介 製作:松竹大船撮影所
1946
監督:木下恵介 製作:松竹大船撮影所
1947
監督:小津安二郎 製作:松竹大船撮影所
監督:黒澤明 製作:東宝
監督:谷口千吉 製作:東宝
監督:吉村公三郎 製作:松竹大船撮影所
1948
監督:稲垣浩 製作:大映京都撮影所
監督:黒澤明 製作:東宝
監督:溝口健二 製作:松竹京都撮影所
監督:清水宏 製作:蜂の巣映画部
1949
監督:小津安二郎 製作:松竹大船撮影所
監督:黒澤明 製作:新東宝/映画芸術協会
監督:木下恵介 製作:松竹京都撮影所