1970年代の日本映画

 

1970年代、さまざまな社会的・経済的要因により、産業全体が停滞する困難な時期を迎えました。連合赤軍の事件や第一次オイルショックによる経済停滞は、若者の虚無感や社会の不安定さを映画に反映させました。業界内では「五社協定」の自然消滅とともに、俳優たちが製作会社の専属契約から作品ごとの契約へと移行し、テレビタレントや歌手の映画出演増加などの変化がありました。これは映画スタッフや俳優の人材育成に新たな課題を提示しました。そんな中、各映画会社は独自の路線を開拓していくことになります。

 

★1970年代の日本映画 20選

 

東宝―スペクタクル映画

 

映画産業が厳しい収益減少という状況を迎える中、東宝は企業の合理化を進め、映画製作の新たな体制を構築し「東宝映画」、「東宝映像」、「芸苑社」、「東京映画」、「青灯社」という五つの独立プロダクションを設立、それぞれに映画製作を委ねる形をとりました。この戦略の一環として、東宝映画と東宝映像は特に特撮技術を駆使したスペクタクル映画の製作に力を入れ、その代表作『日本沈没』(1973年)は、当時としては空前の興行収入約40億円(現在の価値で約100億円)を記録する大ヒットとなりました。『日本沈没』の成功を受け、同作を監督した森谷司郎は、1977年に『八甲田山』を監督しました。『八甲田山』は、明治時代の日本陸軍の遭難事件を描いた作品で、こちらも大ヒットを記録しました。

 

松竹―喜劇路線

 

1970年、松竹は前年比で2億4千万円の増収を達成し、総配給収入が24億6千万円に達しました。この成功の背後には、山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズなど、一連の喜劇作品のヒットがあります。1969年に開始された『男はつらいよ』シリーズは、その愛されるキャラクターと人情味溢れる物語で、幅広い観客から支持を受けました。松竹の喜劇路線は、本シリーズだけに留まらず、ドリフターズやコント55号が出演する映画や旅行シリーズなど、多様な作品を通じて展開されました。この喜劇路線において、山田洋次と同時期に活躍した監督、森崎東はその特異な作風で注目を集めました。森崎の作品は、一見庶民の日常を描いた喜劇に見えますが、社会の下層で生きる人々の怒りを内包しており、森崎自身はこれを「喜劇ではなく怒劇」と称しました。

 

東映―実録ヤクザ映画

 

東映は任侠映画の人気が落ち込む中、新たな映画路線を模索しました。その結果、深作欣二監督による『仁義なき戦い』シリーズ(1973年開始)が誕生しました。このシリーズは、従来の任侠映画が描いてきた理想化された「ヤクザ像」とは一線を画し、実際の犯罪組織の抗争や内部事情をリアルに描出したことで、映画界に新風を吹き込みました。これにより、「実録路線」または「実録映画」と名付けられたこの新たな映画ジャンルは、映画界に衝撃を与え、現在に至るまで高い人気を誇っています。

 

日活―ロマンポルノ

 

日活は、深刻な経営危機を背景に、成人向け映画「ロマンポルノ」の製作を開始しました。ロマンポルノは、特定の制約(10分に1回の濡れ場、上映時間は70分程度、モザイク・ボカシは入らない)の下で、制作の自由が保証されるという特色を持ちました。この路線により、神代辰巳、田中登、曽根中生などの才能ある監督たちが登場し、創造力と技術を駆使して新たな表現の可能性を開拓しました。ロマンポルノは、その深みと多様性により、ジャンルとしての地位を確立しました。この独特の経営戦略により、日活は企業の存続を図りつつ、新たな映画文化を創出することに成功しました。

 

ATG―アート映画の台頭

 

1961年に設立された日本アート・シアター・ギルド(ATG)は、初期には主に海外のアート映画の配給と上映に焦点を当てていました。1970年代に入ると、ATGはその活動範囲を広げ、自社製作のアート映画にも積極的に取り組むようになりました。この時期に製作された映画は、商業映画とは異なるアプローチを採り、芸術性と非商業主義を追求する方針でした。ATGのこの製作方針は、後の日本映画業界に大きな影響を与え、新たな視点と表現力を求める映画制作者たちに刺激を与えました。これらの作品は、映画というメディアの可能性を拡げるきっかけとなり、日本のアート映画の発展に寄与しました。

 

1970年代の日本映画 20選

 

1970

エロス+虐殺

監督:吉田喜重 製作:現代映画社

家族

監督:山田洋次 製作:松竹大船撮影所

1971

儀式

監督:大島渚 製作:創造社

激動の昭和史 沖縄決戦

監督:岡本喜八 製作:東宝

1973

仁義なき戦い

監督:深作欣二 製作:東映京都撮影所

恋人たちは濡れた

監督:神代辰巳 製作:日活

股旅

監督:市川崑 製作:崑プロ/ATG

日本沈没

監督:森谷四郎 製作:東宝映画/東宝映像

1974

青春の蹉跌

監督:神代辰巳 製作:東京映画/渡辺企画

砂の器

監督:野村芳太郎 製作:松竹/橋本プロダクション

田園に死す

監督:寺山修司 製作:人力飛行機プロ/ATG

1975

喜劇 特出しヒモ天国

監督:森崎東 製作:東映京都撮影所

新幹線大爆破

監督:佐藤純弥 製作:東映東京撮影所

1976

犬神家の一族

監督:市川崑 製作:角川春樹事務所

青春の殺人者

監督:長谷川和彦 製作:今村プロダクション/綜映社/ATG

1977

八甲田山

監督:森谷四郎 製作:橋本プロダクション/東宝映画/シナノ企画

HOUSE ハウス

監督:大林宣彦 製作:東宝映像

1979

天使のはらわた 赤い教室

監督:曽根中生 製作:にっかつ

復讐するは我にあり

監督:今村昌平 製作:松竹/今村プロダクション

太陽を盗んだ男

監督:長谷川和彦 製作:キティ・フィルム