家庭用ビデオ(VHS)の普及とエンターテインメントの多様化により大きな変化を迎えた時代でした。スタジオシステムが衰退し、映画関係者がフリーランスで独自の作品を制作するようになりました。監督業のキャリアパスにも変革があり、従来の助監督からの階級制度が薄れ、新しい才能が現れ始めました。この変化は、映画制作の技術継承や作品の質に課題をもたらす一方で、業界に新風を吹き込みました。角川映画は、ベストセラー小説の映画化とメディアミックス戦略を用いて業界に影響を与え、1980年代の映画界に新たな動きを見せました。この時代は、映画製作や文化に大きな影響を与えた、変化に富んだ重要な時期でした。
スタジオシステムの衰退
「スタジオシステム」とは、戦前から高度経済成長期にかけての日本の映画製作体制を指します。この体制下で、東宝、松竹、大映、日活、東映などの主要な映画会社は、俳優、監督、スタッフを専属契約で抱え、一貫した映画製作を行い、一定の品質とスタイルを持つ映画を量産していました。各社はそれぞれ独特の特色やスター俳優を前面に出し、激しい競争を繰り広げていました。スタジオシステムは、映画の量産やブランド化を実現し、新しい才能やオリジナルの映画を生み出すことも可能にしていました。
1980年代になると、家庭用ビデオの普及やテレビ番組の人気増加など、映画以外の娯楽の多様化により、映画館への来場者が減少し始めました。これに伴い、映画会社は経営合理化を進め、スタジオシステムによる映画製作が抑制されるようになりました。その結果、フリーのクリエイターや独立系の映画会社、ミニシアター系の映画館が増える傾向にありました。
フォームの始まり
VHS(家庭用ビデオ)の登場
1980年代の日本でVHS(家庭用ビデオ)の普及は、映画業界に重大な変化をもたらしました。映画館での鑑賞だけでなく、家庭での映画観賞が可能になり、これによりレンタルビデオ店が全国に急速に増加しました。この時期は、1960年代以降、映画館のスクリーン数が減少傾向にあるという課題も同時に顕在化しました。しかし、映画制作会社はこの状況をビジネスチャンスと捉え、映像フィルムの2次使用料や3次使用料などを通じてVHS市場を積極的に活用しました。
角川映画の台頭
角川映画は、1976年に角川書店(現在のKADOKAWA)によって設立された映画製作部門です。創業者の角川春樹は、自社で出版したベストセラー小説を映画化するという斬新な戦略を採用しました。これにより、映画の公開と同時に関連する書籍やグッズを一大キャンペーンとして展開する「メディアミックス」戦略を確立し、後のエンターテインメント業界に大きな影響を与えました。
1980年代の角川映画は、薬師丸ひろ子、渡辺典子、原田知世をはじめとする若手女優を起用した多くの作品を製作しました。これらの女優は“角川三人娘”と呼ばれ、広く人気を博しました。角川映画は、アイドル映画だけでなく、ジャンルを問わない幅広い映画の製作により、1980年代の日本映画界において顕著な存在感を示しました。
フリーの映画作家の登場
1980年代は、スタジオシステムの衰退と共に、多くの映画関係者がフリーランスの道を選び始めた時期でした。これまで、映画監督を目指す者にとって映画会社への入社や助監督としての経験はほぼ必須のキャリアパスでした。しかし、1980年代からは、このような階級制度が薄れ、監督が助監督としての経験を経ずに、独自の作家性で映画を制作するようになりました。この時代の変革は新しい才能の登場を促しましたが、映画制作における専門的な技術の継承に課題をもたらし、映画の質にばらつきが生じる結果となり、業界全体の安定性にも影響を及ぼしました。
ディレクターズカンパニー
1982年6月、長谷川和彦を中心に、新進の映画監督9人で「ディレクターズカンパニー」が設立されました。この会社は、従来の大手映画会社の枠組みにとらわれず、独自の映画を制作することを目指したものです。設立メンバーの平均年齢31歳という若さと個性を武器に、作家性と娯楽性を兼ね備えた斬新な作品の制作が期待されました。代表の長谷川和彦を含む石井聰亙、井筒和幸、池田敏春、大森一樹、黒沢清、相米慎二、高橋伴明、根岸吉太郎らは、新たな映画概念を打ち出すことに挑戦し、後の映画業界にも影響を及ぼしました。
1980年代の日本映画 20選
1980
監督:鈴木清順 製作: シネマ・プラセット
監督:石井聰亙 製作:狂映舎/ダイナマイトプロ
監督:村上透 製作:東映/角川春樹事務所
1981
監督:井筒和幸 製作:プレイガイドジャーナル社/ATG
監督:森田芳光 製作: N・E・W・Sコーポレーション
監督:相米慎二 製作:角川春樹事務所/キティ・フィルム
1982
監督:橋本忍 製作:橋本プロダクション
1983
監督:今村昌平 製作:東映/今村プロダクション
監督:大島渚 製作: シネベンチャー・プロ/レコーデッド・ピクチャーカンパニー/大島渚プロダクション/テレビ朝日/ブロードバンク・インベストメント・リミテッド
監督:森田芳光 製作: にっかつ撮影所/NCP/ATG
監督:大林宣彦 製作:角川春樹事務所
1984
監督:池田敏春 製作:ディレクターズカンパニー/ATG
監督:伊丹十三 製作:ニューセンチュリープロデューサーズ/伊丹プロダクション
監督:澤井信一郎 製作:角川春樹事務所
1985
監督:黒澤明 製作:ヘラルド・エース/グリニッチ・フィルム・プロダクション
監督:相米慎二 製作:ディレクターズ・カンパニー
1987
監督:原一男 製作:疾走プロダクション
1989
監督:塚本晋也 製作:海獣シアター
監督:北野武 製作:松竹富士
監督:阪本順治 製作:荒戸源次郎事務所